光と風のなかへ & 追憶の鉄路

『レッドクロス 女たちの赤紙』の印象 06






敗戦から70年をへた現在もなお 戦傷病者がいる

九州では49名 このうち14名が結核 6人が精神疾患だという

(2015年8月11日 西日本新聞)

戦争は 肉体だけではなく 心も傷つけていく


従軍看護婦の証言記録のなかにも精神を病んだ兵士が出てくる


病院船で働いた守屋ミサによると

「どの航海でも約1割の精神疾患者がいた」という

戦争の恐怖 罪悪感 異常な軍隊生活や

マラリア デング熱などの高熱による発病が多かった

(守屋ミサ『従軍看護婦の見た病院船・ヒロシマ』農山漁村文化協会)


「俺は殺した殺した 人を殺した」とか言って叫んで

非常に凶暴性があって暴れるんですね

それで個室に入れても 鍵かけて入れるんですけど

もう全身でぶつかって鍵を壊すんです

それで太いかんぬきをして それでも開けようとして

もう青くなるくらい全身でぶつかって

外へ出せ出せって どなったりしてましたね。

(中略)

精神病の患者さんは非常に自殺の恐れがあるんです

だから船底に入れるんですけども

甲板へ出て海に飛び込まないかって

そういうことの予防の緊張感のほうが強かったですね

で 必ず甲板に出るところに立ってね

看護婦が付き添って甲板に出るとかね

もう自由に甲板に出せなかったです

両脚のない人が 夜 

壁によりかかって涙流しながらうつむいてるんです

どうしたんですかって言ったら 

もう内地に帰りたくないって こんな体で

海に飛び込みたいけど両脚がなくて甲板にも行けないから

それもできないって涙ぼろぼろこぼしてました

それで「奥さんは生きて帰ってきただけでも喜ぶんですから」

って慰めたことありますけどね。

(NHK戦争プロジェクト『証言記録 兵士たちの戦争③』NHK出版)



戦争と精神疾患に関しては 清水寛の研究がある

清水によると 戦時中に精神に障害を負った軍人軍属の多くは

千葉県市川市の旧国府台陸軍病院に送られたという

名誉の負傷とたたえられた兵士とは違い

精神障害は恥とされ その数は約1万450人に上る


最近も 米軍の帰還兵士を扱った

『帰還兵はなぜ自殺するのか』(亜紀書房)が注目されたが

戦争では 精神疾患の患者が大量に発生する

戦争法案が可決されれば 自衛隊員の自殺者も増加するだろう

だからこそ 同じ過ちをくり返さないためにも

戦争と精神障害の問題は さらに深く研究していく必要がある


ドラマ『レッドクロス』でも 人々の関心を呼び起こすために

こうした場面を扱ってもよかったと思うが

家族の物語を縦軸にすえたためか

肝心の看護活動の場面がやや少なかったのは残念なところ

病棟も綺麗で この点はリアル感に欠けていた


ルソン島中部で看護活動を続けていた奥村モト子は

治療にウジ虫まで使わなくてはならなかったという


「ウジ療法」っていうんよね

暑いところでは傷口にすぐウジがわくんですよ

ウジは血液や膿(うみ)やら汚いものが好きで

それを食べてくれるから ガーゼやら包帯が少ないと助かるわけですよ

ウジ虫を傷口に飼っておけばきれいにしてくれる

まだウジのわいてない人に

ウジ虫置いておくと傷がきれいになるわけ

だけど そのウジ虫が傷を食べ尽くすと

今度は筋肉を食べるから痛いのね

それで患者さんが 看護婦さーん

早くウジ虫取ってくださーい ってあちこちで呼ぶのよ

患者さんの下着 シャツやらを切って包帯の代わりにしたり

バナナの葉をおしめカバーにしたり 衛生材料が不足してるから

なんぼ治療してあげたくてもできない それは情けなかったねえ

(NHK戦争プロジェクト『証言記録 兵士たちの戦争③』NHK出版)


後先も考えず戦場を拡大した結果 補給が追いつかず

待っていたものは 医薬品の欠乏と飢え


しかし ウジが湧くのは 南方戦線の話だけではない

中国の済南で看護活動にあたった小林清子も こう証言する


ガス壊疽患者はもちろん 重傷患者の傷口からは蛆が這い出る始末

(『従軍看護婦たちの大東亜戦争』祥伝社)


中国大陸で戦傷外科に勤務した肥後喜久恵は

全身火傷で包帯に包まれた患者の口にウジがはいり

そのたびに プップップッとそれを出す音がしたという


また大腿骨を切断した患者の切り口にウジがたかり

それをピンセットで挟むと肉まで挟んでしまうので こんな方法を編み出した


手術室に行ってクロロホルムという麻酔薬を持ってきて

ガーゼに浸して そのガーゼをバッーと傷にあててみたの

そしたらウジが麻酔にかかるのね それで ガサッガサッてウジが落ちた

それぐらいたくさんのウジがいるの

(中略)

シラミはもっといっぱいいました

患者の着物を脱がせて ドラム缶の中でお湯で煮て消毒します

ドラム缶の水を捨てるときに 升ですくえるほど

シラミが下にたまっているんです

それから 患者さんが死にそうになると

その人の体温が下がり始めるでしょ

そうすると シラミがまだちょっとは息のある温かい人のほうに

ゾロゾロと這っていくの

(川口啓子・黒川章子『従軍看護婦と日本赤十字社 その歴史と従軍証言』文理閣)



先日も紹介したように 蘇州陸軍病院に勤務していた

三浦賢子も 当時の状況をこう語る


赤痢患者は便器をあてがう暇もない

ほとんど垂れ流しであった

銀蠅は空襲のごとくブンブンと群がり

病室は糞尿の臭いと銀蠅でいっぱいだった

(『従軍看護婦たちの大東亜戦争』祥伝社)


いまの若者は ウジというものは知っていても

本物を見たことがないものがいる

ウジにたかれる様子など想像できない

ドラマゆえにあまりにリアルな表現は避けたのかもしれないが

ナレーションを活用して 劣悪な病棟の状況を再現してほしかった

泥まみれで死んでいく ウジまみれで死んでいく

それがゲームの世界とは異なる 本当の戦争なのだから




氷川丸

横浜の山下公園に繫留されている「氷川丸」も
太平洋戦争では赤十字のマークを煙突と舷側に大きく描き
南方の島々からの傷病兵を日本へ運ぶ病院船となって活躍した
しかし 病院船に配属された従軍看護婦たちの勤務は
「みんな血を吐きながら勤務する」(岡田禎子)と言われたほど苛酷なものだった
なかには「ぶえのすあいれす丸」のように撃沈された病院船もあった

2009.7.31.撮影 RICOH GX200



(次回 完結編に続く)



8月13日(木) 午後10時00分から NHKスペシャルで

『女たちの太平洋戦争~従軍看護婦 激戦地の記録~』が放送されます

日赤でみつかった業務報告書と証言をもとに構成された番組

ぜひご覧になって ドラマとは比較にならない苛酷な活動を知ってください



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